バッテリー付近から出火している現場に遭遇したことをきっかけに、バッテリーに関連する車両火災の原因について紹介しましたが、今回はバッテリー以外での原因を紹介していきます。
エンジンオイル
エンジンオイルは、金属の摩耗を防ぐ「潤滑作用」だけではなく、汚れの堆積を抑える「清浄作用」、エンジンの冷却をする「冷却作用」、内部の錆を抑える「防錆作用」があります。エンジンオイルの交換を怠ると劣化により、それぞれの機能が損なわれます。なかでも「潤滑作用」が落ちると摩擦熱で発熱し、「冷却作用」が落ちるとエンジンを冷却しにくくなるので、重ねてエンジンに負担をかけることになります。
エンジンの焼き付き
エンジンオイルだけでは、直接の火災の原因とはなりませんが、エンジンオイルのメンテナンスを怠り、エンジンオイルの劣化(潤滑性能・冷却性能が失われた状態)した状態で走行し続けていると、エンジン内部の摺動部品が傷ついたり焼き付く可能性が高まります。一度痛めてしまうと修復されることはなく、そのままの状態で走行を続けていると完全にエンジンが焼き付いてしまい、結果としてエンジンブローに繋がり、コンロッドがシリンダーブロックを突き破り内部より噴出したエンジンオイルや混合気が、過熱したエキゾーストマニホールドに付着する事で出火につながる可能性があります。
また、エンジンオイルだけではなく、オイルエレメントの交換は通常オイル交換2回に対して交換することになっていますがオイル交換を怠るということは、当然、オイルエレメントの交換も怠ることになります。オイルエレメント部には高い油圧が掛かっており、エレメントのパッキンが劣化すると勢いよくオイルが噴出します。
エンジンの内部は損を起こす前には、エンジンのチェックランプやオイルランプの点灯、エンジンからの「コンコン」、「カンカン」等の前兆が必ずあります。異常を感じたらすぐに点検するように心がけましょう。
オルタネータ(ダイナモ)の内部ショート
オルタネータ(ダイナモ)内部にオイルが侵入し、ブラシの摩耗粉が堆積し、この摩耗紛により内部ショートを引き起こし火災が発生。
数年前にダイハツから「オルタネータにオイルをこぼさないでください」と書かれた注意が記されたステッカーを貼るリコールが出ていましたので、ダイハツの車両側に問題があったのかもしれませんが、オルタネータを製造しているのは日本電装や日立などのメーカーですから、他の自動車メーカーでも同じ現象が起きる可能性はあります。ただオイルをこぼすだけが問題になるのではなく、エンジンからのオイル漏れによっても同じことが起きますので早めの修理を心がけたい所です。
ウェスの置忘れ
エンジンオイルを拭きとった後のウェスやタオル、作業に使用した軍手等をエンジンルーム内に置き忘れ、エンジンの熱により加熱され自然発火します。
ウェスとは、布や紙製の汚れを拭くための物で、布製はTシャツなどを切ったボロ布などで、紙製の物はキッチンペーパーような素材です。
厳密には、エンジンオイルの成分として使われている植物油脂である乾性油と呼ばれるものが、燃え上がる原因となります。
乾性油とは、乾燥する過程で空気中の酸素と結合し酸化反応を起こす際に反応熱が発生しますので、丸めたり重なったりする状態でエンジンルーム内に残ると、エンジンからの過熱とウェス内側の酸化反応熱が逃げ場を失うことで次第に高温となり、約300℃で発火温度に達します。
エンジンルーム内の温度が約300℃ではなく、重なったウエス内の酸化反応熱が約300度で自然出火することに注意。
燃料漏れ
ガソリンの自ら燃え出す温度(発火点)は約300℃、可燃物を近づけることで燃え出す温度(引火点)は約ー40℃です。燃料漏れにより漏れ出たガソリンが、マフラーで加熱されることによる自己着火。またはマフラー等で加熱された気化ガソリンに何らかの外的な要因が重なり出火に至るケースが考えられます。
またガソリンは、水より軽く溶けない性質を持っていますので、消火しようと水をかけることは、更に燃焼範囲をを広げる結果となります。
セルフスタンドなどで、「静電気除去シートに触れてから給油してください」と書いてありますが、これは体内に蓄積している静電気が火種となるからです。ガソリンスタンドに来るのですから燃料は減っているはずですよね。燃料が減り空間が空いたタンク内は、走行中にガソリンがシェイクされ気化ガソリンが充満しています。キャップを開けた時に「プシュ」と音がしますが、これが気化ガソリンが出てくる音です。これに引火しないために静電気の除去が必要なのです。
ブレーキ
ブレーキ周辺からの出火が原因で,車両火災を引き起こすことがあります。勾配の強い下り坂などで、道路脇に「エンジンブレーキ」と書かれていることがありますが、これはブレーキの仕組みがブレーキペダルを踏むことで、各車輪部にあるブレーキ(ディスク・ドラム)に油圧をかけることで作動しています。この油圧系統に使用している「ブレーキフルード」と呼ばれる液体が、坂道などでブレーキを踏み続けていると摩擦熱によりブレーキが焼けた時の熱により、ブレーキフルードが沸騰してしまいます。この状態では油圧系統の中でフルードが泡立ち、ブレーキが効かなくなります。これを「フェード現象」と言います。
山道でフェード現象を起こしたまま走り続けることはないと思いますが、高速道路でサイドブレーキを戻し忘れて走行している状態では、ブレーキを踏む機会が少ないので、フェード現象が起きていても気が付かない可能性があります。またディスクブレーキの場合にキャリパー・ピストンの戻り不良により、「ブレーキの引きずり」と呼ばれるブレーキペダルを踏んでいないのにブレーキが効いている状態でも同じですが、どちらの場合でも、その状態のまま走り続けることで、ブレーキのダストブーツなどのゴム部品やブレーキフルードに、引火して車両火災につながる可能性があります。
サイドブレーキの戻し忘れは、馬力の無い車両では気付きやすいですが、馬力のある車両は、気が付きにくいです。また最近の車両では、戻し忘れを電子音で知らせてくれたり、電動のサイドブレーキが採用されており、自動でサイドブレーキのロック/解除を行ってくれる車両もあります。
エンジンルーム内の異物混入
ワンボックスタイプやトラックに多い、エンジンが座席の下にあるタイプでは、バッテリーの交換やエンジンオイル交換などの整備の際に助手席の座面部分を開けるのですが、サイドブレーキ付近の小物などが落ちてしまうことがあります。
画像は、100円ライターがマフラーの遮熱版の上で溶けています。幸い出火には至っておりませんが燃えやすいものも一緒に落ちていたら車両火災につながる可能性があります。
枝や枯れ葉
外部から混入した小枝や枯れ葉が過熱部であるエキゾーストマニホールドに接触することで火災につながる事もあります。山などで自動車の下部から侵入してしまう場合や小動物により持ち込まれることもあります。
エンジンのアース線の腐食
融雪剤などの塩害により、エンジンアース線が腐食、断線することにより導通が悪くなと始動性の悪化の他に、本来はアース線に流れるべき逃げ場を失った電流が車両の電子部品に流れることで、焼損や火災につながるケースもあります。
最後に
エンジンオイルや燃料にまつわる火災について紹介しました。車両火災現場に遭遇した事からこの記事のを書き、エンジンオイルや燃料その他の原因となるものを紹介しましたが、もし自分の車から出荷するなんて恐ろしいです。皆様も、この機会に原因となる要素がないか点検して快適なドライブを楽しんでください。
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